【国際】反プーチン運動指導者の実刑判決に大規模抗議デモ、その背景は
ロシアの有名ブロガーで反プーチン運動の指導者であるアレクセイ・ナワリヌイ氏に実刑判決がくだされたことを受け、18日、モスクワ中心部で推定2500人による大規模なデモが行われました。デモ隊はナワリヌイ氏の名前を連呼し「自由を」と訴え抗議運動を展開、これまでに100名が拘束されています。
ロシアのプーチン政権批判で人気を集めるブロガー、アレクセイ・ナワリヌイ氏(37)の実刑判決に怒った数千人が18日夕、クレムリンに近いモスクワ中心部に続々と集結し、無許可の抗議行動を展開した。一時は群衆が仕事帰りの車で混雑する車道をふさぐなど周辺が混乱、当局が多数の参加者を拘束した。
(東京新聞)
ナワリヌイ氏がどんな人物なのか、各紙とも省略してしまっているのでここで補足します。
弁護士のナバリヌイ氏は2年前から自分のブログで政権の汚職を追及するキャンペーンを展開。昨年12月の下院選では、大統領復帰を狙うプーチン首相(59)が率いる与党「統一ロシア」を「ペテン師と泥棒の党」と名付け、他党への投票を訴えた。これがネットを通じて全国に広がり、与党の大幅議席減につながったといわれる。
(毎日新聞)
ナワリヌイ氏はプーチン政権与党・統一ロシアを「詐欺師と泥棒の党」とやゆし、汚職や政権長期化に反発する都市中間層から支持を得た。ただ、プーチン大統領復帰後の野党勢力締め付けの中、12年7月に起訴。今月10日にはモスクワ市長選立候補に必要な署名を選管に提出後、一時拘束される騒動もあった。
(時事通信)
ナワリヌイ氏は弁護士を生業とするかたわら、プーチン大統領を批判するブログを展開してきました。それが与党の議席減につながったとされています。
これまでプーチン大統領はその強力なリーダーシップでロシアを引っ張ってきており、ロシア国民から絶大な支持を得ているものと思われてきました。そうした状況でなぜ反プーチン運動が広がっているのでしょうか。
プーチン首相は90年代経済を支配した財閥との戦いで国民の支持を集めました。しかし今はそのプーチン首相の周辺が新たな財閥、いわばプーチン閥が形成されているのです。
プーチン体制による停滞とは、政治とともに経済におけるプーチン閥の増殖が経済の自由を圧迫している実態があるのです。(NHK解説委員室“ピックアップ@アジア 「ロシア大統領選挙・反プーチンとはどのような人々か」”)
というように、プーチン大統領が絶大な支持を受けたのは、これまで政治経済を牛耳っていた一部の財閥を解体したのが理由でした。しかしその後、NHKが解説しているように、プーチン大統領が自身の財閥に相当するようなものを築いているために、同じ不満が吹き上がっている、という構図のようです。
また、メディアの変化も反プーチン運動に一役かっているようです。
これまでロシアは政権の影響力の強いテレビに対して、ごく一部の政治的な新聞が政府批判を続けるという構図でした。しかし今は新たな政治批判の流れが加わっています。
都市部の中間層を対象としたモスクワのテレビや雑誌が、政治を中心テーマとして反プーチンの動きを大きく伝えだしたのです。(NHK解説委員室“ピックアップ@アジア 「ロシア大統領選挙・反プーチンとはどのような人々か」”)
それに合わせて国民の意識も変化してきています。
重要なのは恐怖というものを多くの人が踏み越えたということです。多くの若者が政治活動だけではなく、さまざまな形で社会貢献したいと願い、実際に行っています。
(NHK解説委員室“ピックアップ@アジア 「ロシア大統領選挙・反プーチンとはどのような人々か」”)
中国の例でも分かるように、一党独裁が長く続くと、次第に圧政、酷い場合には恐怖政治に近い色合いが押し出されてくるようになります。今回のナワリヌイ氏の実刑判決に対しても、米国が次のような懸念を示しています。
ロシア当局が市民による政府批判を抑圧している「最新の例」だと批判した。
(時事通信)
もしかしたら、これまでプーチン大統領が支持を受けてきた、と見えていたのは一部の批判が圧殺されてきたからかもしれません。もちろん、ソ連崩壊後、経済的な混乱からロシアを立て直し、米ソ冷戦で緊張関係にあった対米関係を修復、ロシアの政治基盤を安定させた功績はあります。その一方、だんだんと独裁色を強めていったのも事実です。
反プーチン運動の広がりは、政治的混乱というよりも、ロシアの立て直しというフェーズからロシアの安定の維持というフェーズに移っていく、その移行期ととらえられるのかもしれません。混乱期にはプーチン大統領のような強力なリーダーシップが求められますが、安定の維持には違う資質が求められるからです。
そういえば強力なリーダーシップで絶大な支持を得た小泉純一郎元首相も、首相に就任したのはバブル経済崩壊後の経済混乱期でした。様々な改革に着手し、それらが一段落すると人気は急速に衰えていきました。プーチン大統領批判の広がりは、小泉元首相の人気が衰えていく過程に似ているようにも思います。
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