【政治】首相が福島第一原発5,6号機廃炉を東電に要請、地元では反発も
安倍首相は19日、汚染水漏れが懸念されている福島第一原発を視察し、現在停止中の5号機と6号機を廃炉にするよう東京電力に要請したことを発言しました。すでに廃炉が決まっている1〜4号機に加えて5号機と6号機を廃炉にすることで福島第一原発全体を廃炉にし、汚染水の問題など原発事故全体の収束を加速するのが狙いです。
首相は広瀬社長との会談で(1)5、6号機の廃炉決定(2)廃炉に向けた安全対策を機動的に取れるように、現場の裁量で使える予算枠を確保(3)福島第1原発の地上タンクから漏れる汚染水の浄化に期限を設ける――の3点を求めた。
(日経新聞)
安倍首相はこのように東電の広瀬社長に要請。東電がすでに確保済みの約1兆円に加え、追加で1兆円の予算を確保し、汚染水対策にあてていく予定です。
政府は汚染水対策に500億円の予算を計上しています。ネット上では「500億しか確保しないのか」といった批判が噴出していましたが、今回の要請を受けて東電から2兆円の予算が出ることになります。税金ではない部分からの2兆円の支出ですから、事故の責任を東電にかぶってもらう、という点でも良い予算編成と思っており、前述の批判はあたりません。
首相の廃炉要請に対し、地元から反発が起こっています。
安倍晋三首相が東京電力に福島第1原発5、6号機の廃炉を指示したことについて、5、6号機がある福島県双葉町の伊沢史朗町長は19日、「廃炉は当然のことだが、事前に説明もなく、頭ごなしの総理判断は遺憾だ」と強く批判した。
伊沢町長は「真意を確認する必要がある」とした上で「原発事故直後の対応や、その後の収束作業と同じで、(政府は)避難者や地元自治体を全く見ていない。ばかにされているようだ」と語気を強めた。
(北海道新聞)
第一原発5、6号機がある双葉町の伊沢史朗町長は「立地町としても廃炉にすべきとの方針だ」としながらも、「突然で驚いている。国に対して、町への早急な説明を求めたい」と話した。双葉町から茨城県つくば市の借り上げ住宅に夫婦で避難している中村希雄(まれお)さん(72)は「一歩前進だが、遅すぎる。首相のパフォーマンスになってはいけない。原発事故で避難している住民のこともしっかり考えてほしい」と話した。
(読売新聞)
このように、「廃炉は当然」としながらも「真意の説明を」と首相の判断を批判しています。おそらく町としては福島第一原発全体が廃炉になることで原発立地町としての補助金がどうなるのかを早急に確認したいところ、というのが真意なのだろうと思います。放射性物質で地域全体が汚染されてしまったことで、新たに産業を興すにもその地域に入れなければ興しようがありませんし、なにより多くの人が避難している現状では人がおらずどうしようもありません。町全体をどうしていくのか、の指針を首相が示すと共に、町側も今後どうしていきたいのかを明確に示すべきだろうと思います。
今回の首相の発言が「単なるパフォーマンス」と批判する向きもあるようです。
首相の発言は、東京五輪招致の際、汚染水問題について「状況はコントロールされている」と強弁したことから、全力で取り組んでいる姿勢を示したものとみられる。首相は記者団に「国が前面に出て、私が責任者として対応したい」と重ねて強調したが、新たな具体策は示さなかった。
(東京新聞)
とはいえ、廃炉要請という具体的な指針を示したことは十分評価に値するのではないでしょうか。民主党政権下では1年半以上も指針が示されずに放置されたままでしたから、「福島第一原発をどうするか」という指針を下したのは評価されてしかるべきでしょう。これに対して
<原発の廃炉> 国内では、商業用原発の廃炉を終了させたことはない。現在、日本原電東海原発(茨城県)と、中部電力浜岡原発1、2号機(静岡県)が廃炉作業中だが、解体で出る放射性廃棄物の処分場が決まらないなど多くの問題を抱えている。原子炉は強い放射能を帯び、運転終了から5年以上は弱まるのを待たないと着手できない。また、終了まで最低でも20年はかかる。実験炉の廃炉経験では、切断された炉の鋼材のくずがたまり、放射線が急上昇して対応を迫られるなどの問題が起きた。
(東京新聞)
などとネガティブな反応を見せる東京新聞には、むしろ廃炉できずに問題が起きてほしい、という悪意を感じてしまいます。これまで脱原発、全原発停止を訴えてきたはずの東京新聞がこのような反応を示すのは矛盾していると言わざるを得ません。自民党政権の揚げ足をとってとりあえず批判したいだけなのでは、と勘ぐってしまいます。
最後に、ここへきていまさらながら民主党が口出しをしてきました。
民主党の海江田万里代表は19日午後、安倍晋三首相が東京電力福島第1原発5、6号機を廃炉するよう東電に要請したことについて、「私どもも以前から廃炉にすべきだと言ってきたので、当然の発言だ。東電には一刻も速く判断してもらいたい」と語った。
(時事通信)
民主党の海江田代表が「以前から自分たちが主張」と言い出しています。以前から要請していたのにそれが実現してこなかったのは民主党自身になにかしら問題があったのだということに思いが至っていないようです。まるでむやみに起源を主張するお隣の国のようですね。。。
【ニュースソース】
第一原発を視察 首相5、6号機の廃炉要請(福島県)
日テレNEWS24
首相、福島第1原発5、6号機の廃炉要請
MSN産経ニュース
「福島県の意向に沿った話」=安倍首相の廃炉要請で-佐藤知事
時事通信
5、6号機廃炉、事故収束と並行で作業難航の可能性
SankeiBiz
東電:柏崎刈羽再稼働狙い 福島5、6号機廃炉に前向き
毎日新聞
安倍首相:5・6号機廃炉要請、「汚染水注力」アピール
毎日新聞
廃炉対策1兆円、合理化で捻出=経営再建に重荷—東電
ウォール・ストリート・ジャーナル日本版
安倍首相、福島第1原発を視察 5号機、6号機の廃炉を要請
FNN
安倍首相、東電に福島5・6号機の廃炉を要請
TBS News
茂木大臣、廃炉費用は「まず東電が確保を」
TBS News
双葉町長、首相の突然表明を批判 廃炉指示「事前説明なく遺憾」
北海道新聞
首相が福島5、6号機の廃炉要請 「年内判断」と東電社長
北海道新聞
原発汚染水対策 政府は廃炉まで積極関与せよ(9月20日付・読売社説)
読売新聞
首相、東電に5号機・6号機の廃炉を要請(福島県)
日テレNEWS24
首相:福島第一5、6号機廃炉要請-東電、追加で1兆円確保へ
ブルームバーグ
首相が5、6号機の廃炉要請 東電社長「年内判断」
サンケイスポーツ
福島5、6号機の廃炉指示 首相、原発視察「国が前面に」
SankeiBiz
地元に連絡なく廃炉要請…地元は反発「頭ごなしは遺憾」
スポーツニッポン
安倍首相、福島原発視察 安全アピールも防護服に「安部」
スポーツニッポン
首相が5、6号機の廃炉指示 福島第1、東電は「年内判断」
河北新報
安倍首相、5・6号機廃炉要請 菅官房長官「地元から強い要望」
FNN
遅きに失した決断 首相 5、6号機の廃炉要請 福島第一
東京新聞
【政治】「国民から拒否される政党」民主党が参院選を総括
民主党は2日、7月の参議院選挙で惨敗した要因を盛り込んだ総括文書をまとめました。「国民から拒否される政党」「解党的出直しが必要」と非常に苦しい状況に立たされている表現がみられます。支持が得られなかった理由として、主に情報発信力不足を挙げ、今後の課題として協議していく方針のようです。
当初、2人を擁立していた東京選挙区で、公示直前に現職の大河原雅子氏の公認を取り消したことについては、「無理な調整となったことを厳しく反省する必要がある」と、調整の失敗を認めた。菅元首相らが公認を取り消された大河原氏を支援するなど党が混乱し、「全国の選挙情勢に負の影響を及ぼした」と指摘した。
(読売新聞)
公認候補を取り消された候補者に菅氏が応援に駆けつけるなど、党内での調整もうまくいっておらず、それぞれがばらばらな行動をとっているように見受けられます。これではきちんと有権者に訴えかけることもできないでしょう。
とはいえ、民主党が支持されていない、むしろ拒否されているのは情報発信力以前にこれまでの失政によるところが大きいでしょう。民主党の失政をリスト化してくださっている方がいらっしゃったので、その一部を転載します。
5.野党時代には自民政権に対し国債発行による財源確保を非難しておきながら、自分たちが政権を取ると過去最大規模の国債乱発
7.尖閣問題(ビデオ隠し、外交地検)
8.子供手当て満額無理(でも外国人OK)
10.千葉落選→大臣居座死刑
18.天皇謁見ルール破り
20.中井洽拉致問題担当相 金賢姫(国際的テロリスト)に対する豪華軽井沢バーベキュー&東京上空ヘリ遊覧&お土産付きスペシャル接待 (招請費は3000万円以上)、一方で失踪者の確認拒否
23.反日教育高校無償化、朝鮮学校の無償化
30.マニフェスト詐欺 (マニフェストを片っ端から反故にしておきながら、一方でマニフェストに無かった外国人参政権実現化に着々と)
リストは全部で120項目ほどありますが、ざっと主要なところでもこれだけあります。一番大きいのは30のマニフェスト破りでしょう。実際に公約としてや「やる」といったことが結局ほとんど実行されませんでした。高速道路無料化については無料区間が寸断されており、結局どこかしらで料金を払わなければならない、というお粗末なものでしたし、公約に大きく掲げたガソリン税の廃止についても、暫定税率は廃止しましたが本則税率を引き上げたため、実質はガソリン税増税となりました。このように、一部の公約については「やるといったことはやったが、実質は変わっていないかもっと酷くなった」という状況でした。
このような失政の実績があったために民主党は昨年12月の衆院選でも今年7月の参院選でも惨敗したわけですが、それが情報発進力不足に原因を求めるあたりがなにか間違っているようにも感じます。
政権奪還には野党共闘が不可欠だとする一方で「理念や政策の一致を前提としない共闘は国民の理解を得られず、政権運営で行き詰まる」として拙速な野党再編を否定。その上で「共同歩調が可能な課題を優先し、国会における共闘を模索していく」と明記した。
(スポーツニッポン)
そもそも政権奪還が目的になっていること自体に違和感を覚えます。国民の立場としては安全にくらせる国を実現してくれるのであれば政党などどこでも良い。政権をとることを目的として、かつて民主党が「できないこと」を「できる」といってしまったことが問題なのです。やるといったことを粛々と実行してくれればそれで良かったはずです。その点を誤解しているのであれば、民主党にはもう先がないと考えるのが自然でしょう。
【ニュースソース】
参院選惨敗の民主 総括文書まとめ 海江田代表の「発信力不足」
スポーツニッポン
野党の連携不可欠=民主が参院選総括案
ウォール・ストリート・ジャーナル日本版
【政治】消費税増税の集中点検会合終了、有識者の7割が増税賛成
消費税増税の影響を有識者からヒアリングし広く意見を求める集中点検会合が31日、6日間の日程を終えました。6日間に60名の有識者からヒアリングを行った結果、約7割にあたる44名が増税賛成を表明、11名が見直し案を提示しました。3名が反対し、2名が賛否を明確にしませんでした。7割が賛成を表明したことで政府にとっては消費税増税への追い風となりましたが、今回の会合は拘束力があるわけではないため、最終的には首相の判断を待つことになります。安倍晋三首相は今回の会合の結果に加え、経済指標などを総合的に判断し、9月下旬から10月上旬までに増税可否の結論を出す予定です。
26日から始まった一連の会合では、社会保障の安定的な財源確保や、財政再建の必要性から、消費税率引き上げについては支持する声が大半だった。意見が分かれたのは、引き上げの時期や方法を巡る点だった。
(読売新聞)
読売が報じているように、7割が増税を支持したとはいえ、その時期や方法については意見が分かれました。増税による景気の落ち込みは多くの有識者が懸念するところであり、十分な対策を求めています。一方で増税しないことによる財政悪化や国際的な信用喪失も懸念されており、論点は「増税ショックをいかに緩和するか」というところになりそうです。
会合では増税がデフレ脱却を阻害するかどうかについて、賛否が分かれた。慎重論者は、予定通りの増税は「アベノミクスによる景気回復とデフレ脱却を阻害する可能性がある」(浜田宏一・内閣官房参与、イェール大学名誉教授)、「デフレ脱却途上では増税の刻みは小さくすべきだ」(本田悦朗・内閣官房参与、静岡県立大学教授)などと主張。増税時期の先送りや小刻みな引き上げを求めた。
(中略)
計画が先送りされた場合の財政の信認低下への危機感は強く、「消費増税に伴う景気後退リスクと、見送りによって財政の信認を損なうリスクをてんびんにかければ、後者が重い」(武田洋子・三菱総合研究所チーフエコノミスト)、「国際的な信認が失われ、株・債券などへ悪影響を与える。長期金利の冒頭が懸念され、企業活動・金融システム・財政に大きな打撃となる。将来世代へのつけがさらに拡大する」(岡本圀衛・経済同友会副代表幹事)、「政府は少しでも先送りしていると思われることをすべきでない」(吉川洋・東京大学教授)など懸念表明が相次いだ。
(Newsweekjapan)
“【経済】消費税増税は本当に実施されるのか?4〜6月期GDP速報を受け反応さまざま”で消費税増税の一つの指標となるGDPについて取り上げました。今年の4〜6月期のGDPは確かに増加していましたが、アナリストの予想を下回る数値だったことをうけて、日本経済は十分な回復基調にはないのではないか、という疑問が呈されました。
しかし、この流れですと、消費税増税そのものはほぼ確定のように思います。「いつ、何%引き上げるのか」については議論があるでしょうけれども、増税そのものはほぼ確定事項と見てよさそうです。
では、消費税増税によってもともとの目的である財政再建は可能なのでしょうか。
消費税新設直後は税収項目の新設に加え、当時が好景気だった(解説は後述)こともあり、税収は純粋に増加。しかしそれも失速し、2年目からは減収に。3年目以降は一般会計税収が「消費税導入時点より」少なくなる事態に陥る。
1997年の消費税税率アップ(3%から5%)により、消費税による税収は4兆円ほど上乗せされ、その後は10兆円前後の横ばいを維持する。一方、一般会計税収そのものは導入直後の1997年度はやや上向きになるが、すぐに失速。「税率アップ以降、一般会計税収がアップ時より上回る年度は皆無」の状態のまま現在に至る(2013年度時点まで継続中)。
(GabageNews“消費税と税収の関係をグラフ化してみる(2013年)(最新)”)
GabegeNewsさんが一般会計税収の推移をグラフ化してくださっています。グラフ中に消費税導入と消費税が5%に引き上げられた時期がそれぞれ付記されています。このグラフによると、おおまかにみて消費税導入および5%に引き上げ後、一般会計税収は減少しています。バブル崩壊やリーマンショックなどの影響で大きく景気が後退していた時期と重なっているためにそのように見える可能性もありますが、少なくとも消費税増税が一般会計税収を引き上げた印象はありません。
一方で消費税の税収そのものは5%に引き上げ後、景気の状況とは関係なくおよそ10兆円を維持しています。景気の後退によって税収全体は下がりますが、消費税に限っていえば実は景気にはほとんど左右されていません。政府にとってはこの「安定的な税収が確保できる」ことが、財政を下支えする上で非常に重要になってきます。
※よく「消費税を上げると消費が冷え込み消費税による税収は減少する」という意見がきかれますが、これまでの税収を見る限り、その反論はあたっていません。「景気が後退することにより所得税や法人税などが減少する」という反論であれば間違っていないことになります。
「10兆円前後の横ばいを維持」の動きを見れば分かるように、「景気動向にほとんど左右されない、安定税収源の底上げをするため」と見なして間違いは無い。特に財務省の立場で考えれば、「景気動向に関係なく入ってくる安定収入が、単純計算で今の2倍(消費税率のアップは最終的に現行の5%から2倍の10%が予定されている)になるのだから、これほど素晴らしい話は無い」ということだ。
(GabageNews“消費税と税収の関係をグラフ化してみる(2013年)(最新)”)
このように、景気に左右されやすい所得税や法人税よりも、安定的な税収である消費税に力点を置いた方が政府としてはうれしいのです。
このように考えてくると、財政安定化のためには消費税増税が重要な役割を担うことが分かってきます。ただ、それが景気全体を押し下げる効果があることも明らかであり、政権交代によってせっかく立ち上がった日本経済をふたたび押し下げることにもなりかねません。また、ここで景気後退対策のために多額の補正予算を組んでしまってはそもそもの目的である「財政再建」は達せられなくなってしまいます。
確かに税率を上げる方がシンプルではある。しかし、むしろ経済の活性化を促し、社会全体の利益を拡充させ、そこからの収益増を期待した方が、全体的には、そして中長期的にもプラスの面が多い。
(GabageNews“消費税と税収の関係をグラフ化してみる(2013年)(最新)”)
私はこの意見に賛成です。そのためにも、今後の経済政策に十分な議論を尽くしてほしいと願います。
【ニュースソース】
消費増税、7割が容認 点検会合終わる、景気対策求める声も
中国新聞
消費税「予定通り増税を」7割超 政府の点検会合終了
日本経済新聞
消費税点検会合終了 首相、秋に最終判断へ
日テレNEWS24
首相、景気・雇用見極め 消費増税判断は10月初め
日本経済新聞
消費増税で有識者の7割が14年3%上げ容認、激変緩…
Newsweekjapan
本田氏「1%ずつ増税を」=予定通り、7割超-点検会合
時事通信
【政治】消費税増税の集中点検会合はじまる、景気落ち込みに懸念も
政府は26日、60名の有識者から消費税増税に関する意見を広くヒアリングする集中点検会合の第一回目を開催しました。半年後に控える消費税増税実施の可否に関わる会合だけに、その趨勢が注目されています。
会合は総論に加え、経済・金融、国民生活・社会保障、産業、地方・地域経済の5つのテーマで行われます。初回の総論には7名の有識者が参加。経団連の米倉弘昌会長ら5名は予定通り増税支持を表明。一方で主婦連合会の山根香織会長は「断固反対」を訴え、元日銀副総裁の岩田一政氏は「(経済へのマイナス影響を緩和するため)1%ずつ増税して最終的に10%にする」ことを提案しています。
今回の会合初日、そもそも集ったメンバーの半数以上が増税支持派である点をふまえ、そもそも人選に問題があるのではないか?という声も聞こえてきます。さらに踏み込んで、「60名もの意見を聞いたら混乱するだけ、“意見を聞いた”というアリバイ作りなのでは?」といった憶測もなされているようです。
ここで一度、消費税増税のメリットとデメリットを整理しておきましょう。
<メリット>
政府にとってのメリット
- 金銭的に裕福な人から多く税金をとれる
- 目的税より税率を低くしても多額に調達できる
- 国民が無意識で払うものだから一度増税すると不満がでにくい
- 税収の方法が簡便的で広く、短期間で財源を確保できる
一般市民にとってのメリット
- 公的サービスの質の低下の歯止め
<デメリット>
政府にとってのデメリット
- 景気悪化
- 財政再建不達成時の国民からの政府への不満
一般市民にとってのデメリット
- 政府の無駄削減のインセンティブが低下する
- 逆進性
- 同じ給料の範囲で支出できる買い物の額が減る
大きく考えると、政府にとっては増税によって財源確保がしやすくなり、社会保障や公的サービスに予算をつけやすくなります。それは一般市民にとっても公的サービスの質向上という面でメリットになり得ます。
一方で景気が後退する可能性が高いこと、市民からの不満が噴出し政府の支持率低下が起こること、などの政府側のデメリットもあります。また、一般市民にとっては税負担が増えるため生活が苦しくなる、という最大のデメリットがあります。
政府は財政再建のための財政確保をしたいと思っています。しかし、一般市民にとって大事なのは今日明日の生活、短期的な視点です。ですから、「消費税増税による短期的なデメリットを上回る一般市民にとってのメリット」を提示できなければ、一般市民からひろく賛同を得るのは難しいのではないかと、私個人は思っています。
消費税増税は「国の信用」にも関わってきます。一言で言うと「国債の格付け」のこと。このまま財政再建がなされなければ国債の格付けが下がり、国債による資金調達が滞るようになります。その結果、公的サービス(年金、健康保険、公共施設運用、道路整備など)の質が低下します。たとえば窓口で支払う医療費があがる、公共施設が使えなくなる、道路が荒れる、といったことが起こりえます。極端な例をあげると、米国のデトロイトがそのような状態に陥りました。街の3割が空き地になり、解体するお金もないため廃墟になって放置された状態です。治安は悪化して殺人事件の7割が未解決、救急車が到着するのも呼んでから1時間以上先、といった状況。
ところが、こういった状況は消費税増税によっても起こりえます。というのも、消費税増税によって消費が冷え込み、企業の売上が下がって法人税の税収が下がるとともに、売上低下で従業員の所得が減り、所得税の税収も下がる、という可能性があるからです。
ただ将来の景気への不安は増税を推進する有識者も同じだ。山根氏を除く6人はいずれも増税に伴う景気の落ち込みを和らげるため、「駆け込み需要のあとの対策を万全にすべきだ」(古賀伸明連合会長)と指摘。岩田氏は増税の影響を緩和するため法人税や所得税の減税の実施を求めた。
(日経新聞)
そこで、このように消費税増税による景気後退を防ぐ対策を万全にすべき、という意見が今回の7名のうち6名から出ています。
また、先週の記事になりますが、読売新聞グループ会長の渡辺恒雄氏が政治家に宛てた暑中見舞いで次のような意見を送った、と話題になりました。
「なお、年末に向けての政府の最大課題の一つは、消費税の実施時期の問題です」ではじまり、「アベノミクスの失敗は許されません」、「伝統的な財務省の早期財政再建至上主義よりも、異次元の方策があります」とし、「8%を中止し、10%に上げる時に、軽減税率については生活必需品は5%にとどめること」が提案され、「近く小生としても詳細な具体策を報告するつもりです」と結ばれている。
(ダイヤモンド・オンライン“話題を呼ぶ「ナベツネ書簡」 消費税増税は政局化する”)
税率をすべての品目で一定にするのではなく、一般市民にとってもっとも影響の大きい生活必需品に限っては5%のままとし、それ以外の税率をあげるべき、という考え方です。一部の品目に軽減税率を適用して低所得者にも配慮する、という方式を採用している国は多くあるようです。しかし、「どこからどこまでを生活必需品とするか」の線引きで議論が紛糾することもありますし、帳簿上の処理が煩雑になる、という手続きの複雑化の問題もあります。私個人としては一部の品目に軽減税率を適用するやり方に賛成なのですが、制度設計に問題があることは否めません。
ですから、たとえば消費税増税のかわりに所得税を軽減する、というのも手だろうと考えます。現在の日本で全金融資産のうち8割を60歳以上が保有している、というデータがあります。所得税を軽減する、ということは現役世代に減税の恩恵をもたらし、高齢者世代からの税収を大きくする、という効果が出てきます。世代間格差の解消という意味ではこの方式もアリだろうと思いますが、高齢者層からの反発は大きくなるでしょう。
このように、単純な増税だけではうまくいかないのではないか、という意見がさまざまもちあがってきています。26日から6日間の集中会合でどのような結論に達するのか、一般市民の立場から注目したいと思います。
【ニュースソース】
消費増税へ影響点検 政府、有識者から聞き取り開始
日本経済新聞
消費税増税判断、首相「有識者会合踏まえ秋に判断」
TBS News
7人中5人が「予定通りに」=消費増税で集中点検開始-政府
時事通信
消費税増税最終判断へ、有識者からのヒアリング開始
TBS News
景気対策で2兆円の所得減税案 消費税点検会合スタート
中国新聞
消費増税、最終判断へ賛否聴取 集中点検会合始まる 31日まで6日間
SankeiBiz
【消費増税点検会合】 メンバーは容認派が半数以上
MSN産経ニュース
消費税率引き上げ 首相、10月上旬までに最終判断
日本経済新聞
「最終的に私が判断する」 消費増税で安倍首相
asahi.com
NY市場 円安の動き根強い 消費税増税は円安シナリオか
Klug クルーク
消費増税、集中点検会合始まる 反対論も(東京都)
日テレNEWS24
安倍首相、消費増税について「議論をふまえて、わたしが決める」
FNN
消費税会合開始 県民不安、理解の声も「生活どうすれば…」
茨城新聞
消費増税の判断、秋に判断したい~安倍首相
日テレNEWS24
消費税率引き上げ集中点検会合 「慎重」少数派に首相ブレーン浜田氏ら
SankeiBiz
消費増税の可否、集中検証 最終判断へ「点検会合」スタート
SankeiBiz
消費増税めぐる集中点検会合始まる 有識者ら60人にヒアリングへ
FNN
財政再建、脱デフレ両立焦点 消費税率引き上げ集中点検会合
SankeiBiz
消費増税を行うかどうか判断するため、政府は、6日間で総勢60人に上る有識者のヒアリングを始めました。
テレビ朝日
消費増税、政府・与党で浮上 来年4月、予定通り8%
MSN産経ニュース
【消費増税点検会合】 賛否吸い上げ、熟慮の姿勢アピール
MSN産経ニュース