【経済】所得格差拡大、社会保障による修正幅も過去最大に
厚生労働省は11日、2011年の所得再分配調査の結果を発表しました。調査の結果によると、年金や社会保障を除いた当初所得によるジニ係数は前回の2008年調査に比べ0.0218ポイント増の0.5536と過去最大となりました。ジニ係数は0〜1の間で示され、1に近づくほど格差が大きい、とされています。
そこに社会保障や年金などを加えた所得再分配後のジニ係数は0.3791でほぼ横ばい。ただし、社会保障による修正幅が31.5%と過去最大となりました。
これらの結果は何を意味しているのでしょうか?
まず、当初所得によるジニ係数で格差が拡大していることについて、
高齢化に伴う高齢者世帯の増加や、一人暮らしの増加など世帯の小規模化が要因となっている。
(時事通信)
としています。所得再分配調査は世帯単位で行われますから、所得の低い若者や高齢者の単身世帯が増えればそれだけ世帯当たりの所得が下がることになります。また、高齢者が急速に増加し、所得が減少していることも、ジニ係数に大きく影響しているということです。
一方で所得再分配後のジニ係数はほぼ横ばいです。当初所得によるジニ係数が大きいのですから、社会保障などによる再分配が強くはたらいていることが分かります。これは社会保障による修正幅が過去最大であったことからも読み取れます。
これについて厚生労働省は「所得の少ない高齢者世帯の割合が増えていることなどで、格差は広がった。ただ、年金や税などの制度による所得の再分配機能で是正も図られている」としています。
(NHK)
NHKはこのように報じ、社会保障が正常に機能し所得再分配がうまくなされている、としています。しかし、その内情を考えると、
再分配前の当初所得でみた係数より31.5%縮小し、この縮小幅は過去最大となった。年金・医療でたくさんの給付を受ける高齢者の増加が背景にある。
(中略)
年金や医療などで受け取れる給付額から税や保険料などの負担額を引くと、20~50代はマイナスだが、60代以降はプラスに転じる。現役世代から高齢世代への所得移転による格差是正は進む。
(日経新聞)
日経が報じているように、社会保障制度が強く機能する、ということは現役世代の負担が大きくなっている、ということの裏返しに他なりません。
さらに、
今回の調査は民主党政権下での所得再分配の実態を調べたものだ。民主党政権は子ども手当や高校無償化などの給付拡大を進めたものの、厚労省はそうした政策の効果は「今回の結果にほとんど影響していない」としている。
(日経新聞)
このように、民主党政権時代のバラマキは格差是正に効果がなかった、と分析。民主党政権の政策がいかに無意味であったかを暗に批判しているようです。
日本は現在、前代未聞の少子高齢化時代に入っています。これまでは高齢者一人を5〜6人の現役世代で支えていたのが、今後は高齢者一人を2〜3人で支えていく時代になります。それだけ、現役世代がどんどん苦しくなっていくのはもはや明らかです。
すこし話はそれますが、昨年のyomi.Drの記事に「欧米にはなぜ、寝たきり老人がいないのか」というものがありました。
今から5年前になりますが、認知症を専門にしている家内に引き連れられて、認知症専門医のアニカ・タクマン先生にストックホルム近郊の病院や老人介護施設を見学させていただきました。予想通り、寝たきり老人は1人もいませんでした。胃ろうの患者もいませんでした。
その理由は、高齢あるいは、がんなどで終末期を迎えたら、口から食べられなくなるのは当たり前で、胃ろうや点滴などの人工栄養で延命を図ることは非倫理的であると、国民みんなが認識しているからでした。逆に、そんなことをするのは老人虐待という考え方さえあるそうです。
(yomi.Dr“欧米にはなぜ、寝たきり老人がいないのか”)
単に延命処置を施すことがいいことではない、と断じています。もちろん、欧米式だから良い、ということはありません。ただ、単純な延命処置は「適切に死ぬ」ことを妨害しているようにしか見えません。こういってはなんですが、回復する見込みのない高齢者に延命処置を施して、現役世代から吸い上げた社会保障費をつぎ込むのはどうしても歪んで見えてしまいます。
「死なないこと」を大事にするあまり、「生きていること」の本質を見失っていないか、と高齢者の終末医療の話を目にするにつけ思うのです。必要なのは「ただ長く生きること」ではなく「適切に死ぬこと」なのではないか、と。
社会保障制度の見直しもそうですが、こうした基本的な死生観をあらためて考えることも、日本の極端な少子高齢化と真剣に向き合う上で必要なのではないかと考えます。
【ニュースソース】
所得格差、過去最高に 世帯所得は3年で40万円も減少
ハフィントンポスト
所得再分配調査:格差、過去最大に
毎日新聞
世帯の所得格差、過去最大に 高齢、単身世帯増加で
47NEWS
【ビジネス】サムスン製品の輸入差し止め、米国が発動承認
米国の通商代表部(USTR)は8日、米アップルが特許侵害を理由に韓国サムスン電子製品の輸入差し止めを求めていた件について、差し止めを指示した米国際貿易委員会(ITC)の決定を有効とし、輸入および販売差し止めを承認しました。この決定によって、米国内ではこれまで販売されていたサムスン電子のスマートフォンやタブレット端末の一部が販売停止になる可能性もあるそうです。
ただ、今回の措置で差し止められるのは旧型機種が中心で、サムスンの業績に大きな影響を及ぼすものではない、との見方もあるようです。一方で特許を巡って2011年から激しい争いを繰り広げてきた両社に米国がひとまず「アップルの勝ち」としたことで、今後の法廷闘争に大きな影響を及ぼすことも確実視されています。
MM総研のデータによりますと、2012年度通期の国内携帯電話シェアはアップルが25.5%と市場の4分の1をとっている形となっています。ところが世界全体のシェアでみると、IDCのデータによれば2013年1〜3月期のスマートフォンシェアはサムスンが32.7%、アップルが17.3%とアップルがサムスンに大きく水を空けられている状況です。
スマートフォン出荷台数のメーカー別ランキングの首位は4期連続で韓国Samsung Electronics。出荷台数で2位の米Appleの約2倍、シェアの差を前期よりさらに9.6ポイント広げた。同社の出荷台数は、2位~5位のメーカーの出荷台数合計をも上回る。
(ITmedia“世界でのスマートフォン出荷台数、2013年第1四半期に初めて携帯電話を上回る──IDC調べ”)
このように、サムスンのスマートフォンは世界市場でみると4期連続でシェアトップを走っており、一方のアップルはシェア2位をキープしているものの、じわじわとシェアを落としています。
特許侵害を訴えて提訴する理由は、ある意味で単純です。特定の特許を守ることはもちろんですが、競争者の存在そのものを許さないのです。言葉を換えれば、自らが創造した市場に他者が入り込むと、今までは横綱相撲だったのに、俄然、尻に火がつきます。後発組が先発組を追い越し、母屋を乗っ取るかのような動きは、自ら創造した市場を守るためにも断じて許されません。そのための具体的な武器として知的財産が活用されるというわけです。
(ダイヤモンドオンライン“アップル vs サムスンの知財紛争は
アップルとサムスンの特許争いが始まったのは2011年。ちょうどそのとき、アップルのスマートフォン市場シェアはサムスンに逆転されました。それを契機にアップルは特許侵害を理由にサムスンを提訴しています。
アップルとサムスンとの間で特許紛争が勃発したのは2011年4月のことでした。まずアップルが、「サムスンが特許を侵害している」とアメリカで提訴し、すぐさまサムスンが逆提訴します。時をおかずサムスンは、4月に日本とドイツで、さらに6月にはイギリスとイタリアで提訴します。アップルも負けじと6月には韓国で提訴し、9月には日本で逆提訴するなどして、両社の特許紛争は、世界を舞台にして争われる「多重的世界司法闘争」へと拡大しました。
(ダイヤモンドオンライン“アップル vs サムスンの知財紛争は
特許争いは米国、ドイツ、イギリス、イタリア、韓国、日本と複数の国で提訴合戦が行われ、激しい争いが各国で繰り広げられています。この背景には、すでに述べたようなアップルの危機感がみてとれます。
日本ではアップル製品の勢いが強くサムスン製品があまり売れていない、という状況にあるため、アップルがサムスンに対して危機感を抱いている、という事態はなかなか想像しにくいかもしれません。
韓国メディアは、夏商戦でソニーとサムスンの販売台数に大差がついた理由について、日本がソニーのホームグラウンドであることや、「反韓感情」で韓国企業であるサムスンを敬遠する心理が働いたとの見方を示した。実際に販売店ではツートップではないシャープがサムスンの販売台数を超えることも少なくなかったとし、「品質だけでは超えられない韓国製品に対する警戒心が未だ日本市場にあることを示す事例」と説明。
(YAHOO!ニュース“サムスン、日本で屈辱…ドコモ「スリートップ」から脱落か=韓国”)
以前ドコモが「ツートップ戦略」としてソニーとサムスンのスマートフォンを大々的に押し出す販売戦略をとったことがあります。そのとき、ソニー製品はたしかに好調な売れ行きを示しましたが、サムスン製品はソニーの約半分と芳しくない売れ行きでした。「日本国内では反韓感情からサムスン製品が売れない」と分析する向きもあるようです。
このような事情もあって、世界的にもアップルがトップを走っていると思いがちですが、たとえばロシアではアップルからの販売ノルマが苛烈すぎてiPhoneの取り扱いを辞めています。このように、アップルが必ずしも世界中で受け入れられている、というわけではなさそうです。
今回の米国内の争いではひとまずアップルに軍配が上がりました。とはいえまだまだ両社の争いは続いていくものと思われます。はたしてどうなっていくのでしょうか。興味深いところです。
【ニュースソース】
サムスンの輸入差し止め命令が発効 拒否権発動せず
Klug クルーク
サムスン電子、米政府に輸入禁止命令への拒否権発動求める
ブルームバーグ
旧型サムスン端末の販売差し止め命令、米大統領審査期間の終了迫る
朝日新聞
米政権、サムスン製品に対するITCの輸入禁止命令を支持
ウォール・ストリート・ジャーナル日本版
【国際】スイスがベーシックインカム導入にむけ国民投票を実施
スイス政府は国内のすべての成人を対象としたベーシックインカム制度の導入を巡り、国民投票を実施する予定です。この動きを主導した市民団体は国民投票に必要な10万人以上の署名を集めて議会に提出、国民投票実施の運びとなりました。
今回の案ではスイスに在住するすべての成人に対して政府が無条件で毎月2500フラン(約27万円)を支給することを要求しています。金銭面でのセーフティーネットを提供することが目的ですが、「働く人がいなくなるのではないか」「財源はいったいどうするのか」といった批判も聞こえてくる一方、この動きを歓迎する向きもあります。
無条件で現金が支給される、というと多くの人はびっくりし、同時に「生活が楽になる!」と喜ぶことでしょう。しかし、果たしてそうでしょうか。ベーシックインカムとはそもそも何なのか、すこし振り返ってみましょう。
ベーシックインカム (basic income) は最低限所得保障の一種で、政府がすべての国民に対して最低限の生活を送るのに必要とされている額の現金を無条件で定期的に支給するという構想。基礎所得保障、基本所得保障、国民配当とも、また頭文字をとってBIともいう。
このように、ベーシックインカムは「最低限の生活を送るのに必要とされている現金を無条件で支給」することが目的です。すべての国民に配分されるため、個別対処的な年金や生活保護などはなくなることになります。
新自由主義論者からの積極的意図には、ベーシック・インカムを導入するかわりに、現行制度における行政担当者による恣意的運用に負託する要素が大きい生活保護・最低賃金・社会保障制度などに含まれる不公正や逆差別といった問題を解消し、問題の多い個別対処的福祉政策や労働法制を「廃止」しようという考えが含まれる。
ベーシックインカムの導入により、個別に判断の必要だった年金や生活保護などの社会保障制度が一括して「現金支給」という形に集約されるため、行政コストが大幅に低減し、より「小さな政府」が可能になる、とされています。
その他にも次のようなメリットが考えられます。
これらはすべて、「基本的な生活は保障されているから」という安心感の上に成り立っています。事業に失敗しても無一文になることはありませんし、おかしな企業に入社してしまったらすぐに辞めることもできるようになります。自分に合わない仕事、と思ったら転職することも容易になりますし(転職に失敗しても生活は守られる)、そうした自由な気風が広まれば、失敗を恐れずにイノベーションもできるようになる、というわけです。
こうしてみるととても良い制度のように見えます。しかし、そこには大きなデメリットもあることを忘れてはなりません。
最大のデメリットはなによりも財源です。無条件ですべての国民に現金を支給するわけですから、そのお金を捻出しなければなりません。単にお金を増刷してしまえばインフレになりますし、かといって税金を上げてしまえば現金を支給する意味がありません。
経済評論家の山崎元氏は「1円も増税することなく日本国民全員に4万6000円のベーシックインカムを支給することが可能である」としています。その財源は年金・生活保護・雇用保険・児童手当や各種控除を廃止してそれらをすべてベーシックインカムにあてる、というものです。つまり、社会保障制度をすべて廃止してベーシックインカムにすれば良い、という考え方です。
ここでもうひとつのデメリットが浮かび上がってきます。ベーシックインカムは行政コストを引き下げることがメリットとしてあげられていますが、社会保障制度を大きく引き下げた場合、「お金は渡すからあとは勝手にやってね」というデメリットになりうるのです。具体的に言うと、たとえば現行制度では病院の窓口で払う費用は実際の30%ですが、これがなくなるため満額支払わなければならなくなります。介護保険がなくなれば公的な介護施設に入るのにも莫大な費用がかかるようになるでしょう。たしかに生活保護や年金の心配はなくなるにしても、医療・福祉に関わることは「自己責任」ということになっていきます。
ベーシックインカムの考え方は新自由主義の極限です。つまり、「市場原理や個人の自由に任せ、政府はなるべくそこに介入しない」という考え方です。それが押し進められると「お金は渡すからあとは自由に(自分の責任で)やってね」というところに落ち着きます。現金支給というセーフティネットが用意されていますから、多少の自己責任論は引き受けられるでしょうけれども、完全な自己責任はすこし怖い気もします。
太平洋の南西にナウル共和国という国があります。人口約1万人程度の小さな島ですが、島には大きなリン鉱山があり、大変栄えていました。ナウル政府がリンを海外に輸出する莫大な収益を国民に分配していたため、国民はほとんど働く必要がありませんでした。しかし1999年にはリンがほぼ枯渇、財政が破綻します。これまで働く必要のなかった国民は自ら収入を得なければならなくなっていますが、およそ1世紀の間働く必要がなかったため、そもそも「どのように働いたらいいのか」すらも分からない状態からの出発なのだそうです。
ナウルの他、アラスカやイランなどでも天然資源の収益を財源としたベーシックインカムが実施されていますが、これらの財源は有限であり、いずれ枯渇することが分かっています。一方、今回のスイスの場合、果たして財源をどこからひっぱってくるのでしょうか。とはいえ、まだ国民投票の実施が予定されただけで、実施するかどうかは決まっていません。また、国民投票実施を要求した市民団体がどこまでデメリットを検討しているのかもわかりません。
スイスのベーシックインカムが実施されるとなったら、壮大な社会実験となるでしょう。いったいどのような結果になるのか、注目したいところです。
【ニュースソース】
Swiss to vote on 2,500 franc basic income for every adult
Reuters
一部訳:タイラー・コーエン 「スイスでベーシックインカム導入?」
経済学101
【社会】2010年の警視庁国際テロ捜査情報流出事件、時効で立件断念
国際テロに関する警視庁公安部の内部資料が流出した2010年の事件について、同庁は偽計業務妨害の疑いで操作を進めていましたが捜査は難航、今月29日に時効を迎えるにあたって立件を断念し、容疑者不詳のまま書類送検する方針を固めました。捜査関係者への取材で明らかになったそうです。
事件の概要をWikipediaから引用します。
公式文書はほぼすべてが国際テロ捜査に関する内容で、テロ関連の捜査対象者又は捜査協力者とされた在日イスラム教徒の個人情報(国籍、氏名、生年月日、旅券番号、職業、出生地、住所、電話番号、家族、出入国歴、出入りモスク)、中東のイスラム国の在日大使館員の口座記録、特定のモスクの出入り者総数などが記録されており、個人情報が記載された人は延べ600人以上に及んでいる。また「北海道洞爺湖サミット警備の体制」「捜査協力者に育成するまでの心得」「在日米軍の爆発物処理研修」「米空軍特別捜査局の機密情報」など日本警察や米軍の手の内に当たる情報も入っていた。
流出したのは国際テロに関する内容で、捜査協力者や捜査対象者の個人情報も含まれていました。このデータが事件発生の1ヶ月後にあたる2010年11月25日に警察批判本などを出版している第三書館から「流出『公安テロ情報』全データ」として出版、物議をかもしました。出版の数日後に個人名が記載された人物から販売差し止め要求が東京地検に訴えられ、現在は個人情報を全面的に削除した形で再販しましたが、その後、在日イスラム教徒らからの損害賠償と出版禁止の訴えを受け、東京地検は出版禁止を命じています。
11月27日現在で21ヵ国の1万286人が入手したと報道されている。過去のネットで機密情報が漏洩した事件と異なり、PC利用者自身の個人情報が漏洩していないため、警視庁の関係者から「内部の権力闘争で意図的に流された可能性もある」との指摘もなされているという。
このような指摘もあり、国家の安全に関わる重要機密が別の意図で利用されてしまった可能性があるとされています。
この事件をみて、先日話題になったいわゆる「秘密保全法」を思い出しました。今回の事件はあくまで「偽計業務妨害」の疑いでの捜査です。偽計業務妨害とは「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の業務を妨害すること」であり、情報流出そのものが罪に問われているのではなく、情報流出の結果、この事件では公安部の捜査業務等に支障が出た、という名目で捜査の手が入ったと思われます。
一方、仮に秘密保全法が成立した場合、この事件は国際テロに関する情報の流出ですから、国家安全保障に関わる機密の漏洩であるとして、情報流出そのものを罪に問うことができるようになります。
秘密保全法に対する反発は非常に強かったようで、先月に募集されたパブリックコメントでは寄せられた意見約9万件のうち8割が反対意見だったとも報道されています。そのような状況を鑑みてこのニュースをあらためて考えてみると、秘密保全法に安易に反対するのはどうか、と考えてしまいます。
【ニュースソース】
国際テロ捜査情報ネット流出、立件断念 警視庁、容疑者不詳で書類送検へ
47NEWS