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【国際】「シリアの化学兵器使用は国際法違反、では米国による原爆投下は?」

米国のケリー国務長官が26日、内戦状態にあるシリアで化学兵器が使用された疑惑があるとして非難、シリア政府に対して厳しい措置をとる考えを示しました。その2日後の28日、米国務省の定例記者会見で「シリアによる化学兵器使用が国際法違反ならば米国による日本への原爆投下も国際法違反なのではないか」との質問がロイターの記者からハーフ副報道官に向けてなされました。ハーフ副報道官は質問へのコメントを避けています。

 

米政府はアサド政権による化学兵器使用を断定。この日の会見でハーフ副報道官は国連安全保障理事会による武力行使容認決議なしに軍事介入することを念頭に、多数の市民を無差別に殺害したことが一般的に国際法違反に当たると強調した。

(MSN産経ニュース)

 

米政府はいわゆる「大量破壊兵器」の使用は国際法違反だとして、今回その疑惑のあるシリア政府を非難、シリア内戦に介入を進めようとしています。では米国がかつて使用した原爆は大量破壊兵器にあたらないのか、というのがロイターの記者の問題提起です。

 

原爆を実際に兵器として戦場で使用したのは米国だけです。また、1965年〜1975年のベトナム戦争では米軍は枯れ葉剤(マスタードガス)を散布してベトナムの一般市民に被害をもたらしています。

米国は現在、核兵器を実戦配備しています。生物兵器化学兵器は実戦配備されてはいないものの、兵器の開発自体はなされている、といわれています。このような状況でシリア政府に対し化学兵器の使用を非難する、というのは公平さからいっておかしいのではないか、という印象を受けます。

 

1990年、イラクが隣国のクウェートに侵攻したのをきっかけに米英を中心とした多国籍軍と戦争、湾岸戦争が勃発しました。停戦協定が結ばれて戦争が終結するのが2003年、イラクによるクウェート侵攻から13年かかっています。その間の2001年には米国大統領がクリントン氏からブッシュ氏に変わっており、ブッシュ政権の元、2002年にはイラクが「大量破壊兵器を保有するテロリスト国家」と名指しで非難。2003年には湾岸戦争の停戦協定が結ばれますが、2001年に発生した同時多発テロの報復もあり、米国はイラクが大量破壊兵器を保有していると主張してバグダッドなどの主要都市を空爆、イラク戦争の開始となります。その後、大量破壊兵器の調査が行われましたが、実際には大量破壊兵器保有を示す証拠はみつからなかった、とされています。

 

そうした時代の流れの中で、アメリカの世論は今回の「シリア攻撃」を支持はしていません。一部の調査によれば、9%の支持しかないという報道もあります。2016年の有力な大統領候補と言われている、ランド・ポール上院議員(共和党)は議会決議なき開戦には強く反対するという声明を発表して、大統領への非難を強めています。

ニューズウィーク日本版“アメリカはどうしてシリア攻撃に踏み切ろうとしているのか?”)

 

このように、そもそも米国国内ではシリアへの軍事介入が支持されていません。

シリアの内戦状態は中東と北アフリカで連鎖的に発生した民主化運“アラブの春”のひとつとみなされています。長い間、ムバラク政権下で非常事態宣言が出されたままになっていたエジプトと同様、1962年以降、イスラエルとの戦争状態にあったことを理由に非常事態宣言が出されたままになっていました。それが、周辺国の民主化運動の影響を受けて紛争状態にまで発展しています。内線といわれてはいますが、周辺にイスラム世界と対立するイスラエルがあり、そこに介入する欧米諸国があり、という状況で周辺国からの介入も多く、単純な内線だけでは済んでいない状況です。

もともと親イスラエル派の米国はそうしたシリア情勢になにかしら理由をつけて介入したいのでしょう。それが今回の化学兵器非難になったのだろうと思います。しかし、現状、大量に核兵器を保有していることであるとか、原爆を使用したこと、イラク戦争のように大量破壊兵器保有を開戦のきっかけにしながらも実際にはなかったこと、などを勘案すると、ロイターの記者の質問は米国の痛い所をついたものだろうと思います。

 

このニュースは私が調べた範囲で国内では産経のみが報じています。その点も考慮して、この事実を見つめるべきでしょう。

 

 

【ニュースソース】

「原爆投下も国際法違反か」シリア化学兵器使用で米国務省に質問飛ぶ
MSN産経ニュース