ニュースを比較してみるブログ

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【私見】「お金のいらない世界」を望む心性ードイツのとある女性の実験から

ドイツのハイデマリー・シュヴァルマーさんという女性が15年間、お金を使わずに生活をしている、ということが話題になっています。その生活ぶりが質素かといわれるとそうでもなく、意外に豊かな生活をしている、ということがさらに話題性に拍車をかけているようです。

 

ドイツのとある女性の生き様が、現地メディアで取り上げられ、注目を集めている。彼女はこれまで15年間、お金を一切使わずに生活しているというのだ。しかし、彼女はホームレスではなく、衣食住に不自由なく暮らしているという。

また2冊の著書を出し、彼女の生き様はドキュメンタリー映画にもなっているのだ。では一体、どのように暮らしているのだろうか? どうやら彼女の生き方には、さまざまな知恵と工夫があるようだ。

(ロケットニュース24)

 

このように、ハイデマリーさんはお金をいっさい使わなくても衣食住に不自由していない、とのこと。うさんくさいな、と思ったのですが、どうやら事実のもよう。

ハイデマリーさんは物々交換が可能で、雑用をこなせば宿泊も可能な「譲り合いセンター」で生活をしています。この譲り合いセンターはハイデマリーさんが1994年に自身で設立したもの。記事元のロケットニュースによると、

 

これは、お金を使わずに価値を交換する施設である。たとえば、古着を台所用品と交換できたり、車に関するサービスを提供する見返りに、配管サービスを受けられたりなど、価値と価値を交換することができるのだ。この施設は、数多くの失業者の助けとなり、彼女のアイディアを真似した施設が、ドイツに多数誕生した。

(ロケットニュース24)

 

とのこと。つまり、お金がなくても十分いきていけるインフラとなっているのです。これはこれですごいことだろうと思います。現代社会では基本的に「お金がなければ生活できない」と思い込まれていますが、そうではない生き方を実践し、それを継続できているからです。

 

この記事に対し、諸手を上げて賛同している反応が多々見られました。「素晴らしい生き方!」「お金がなくても幸せになれる!」といったコメントが多数を占めています。これだけ多くの人がこの記事に賛意を示している背景にはいったい何があるのでしょうか?

 

まず、個人的な経験として、このニュースに賛意を示している私の友人知人はそのほとんどが「経済的に不自由がない、あるいはやや恵まれている」くらいの、いわゆる中の中〜中の上くらいの生活レベルの人たちです。少なくともお金には困っていない。そういう人たちが「お金なんかいらない!」というとき、貨幣経済の恩恵を享受しているそうした人たちが貨幣経済を否定する、という矛盾がどうしても目についてしまいます。彼ら彼女らは「物々交換でも十分生活が可能だ」と主張します。そして、現代の金融資本主義を激しく攻撃します。

 

このように見ると、この記事に賛意を示す人たちの多くはおそらく、本気で「お金なんかなくなればいい」とは思っていなさそうだ、ということに気づきます。彼ら彼女らがなくなってほしいと思っているのはお金がもたらす苦労、たとえば「労働」であったり「格差」なのではないかと思っています。その証拠に、彼ら彼女らの多くは金融資本主義を激しく攻撃しています。

 

貨幣経済の恩恵にあずかっている彼ら彼女らは、物々交換の経済に適応することができるでしょうか?

 

物々交換が成立する条件は、自分の欲しいものを相手がもっており、相手が欲しいものを自分がもっていることです。たとえばAさんが家事が得意だとして、それと交換できるものを得るためには、Aさんの家事に対してAさんが欲しいと思うものを提供でき、かつ提供するものがAさんの家事と等価であると認められる必要があります。たとえばAさんが「車が欲しい」と思ったら、はたしてどれほどの価値を提供する必要があるでしょう?だから、物々交換には非常に大きな制限がかかります。

 

貨幣経済はそもそも、物々交換によって発生するこうした取引のミスマッチを防ぐために生まれました。「保存できる価値」の発明です。彼ら彼女らは、貨幣経済のこの部分を否定したいのではないように思うのです。

 

その点がごっちゃになって、「賛成はしているけれども本気でそれに取り組む意欲のなさそうなコメント」が多々見られるようになっているのではないかな、と思うのです。

 

【参考】

まさに夢の生活! 15年間お金を使わずに生活するとても豊かな生き方
ロケットニュース24