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【政治】解禁されたネット選挙運動を振り返るーそのメリットとデメリット

公職選挙法の改正により、21日に行われた参議院選挙の選挙運動から解禁されたネット選挙運動。TwitterFacebookはもとより、YouTubeUStreamといった動画メディアも広く使われ、従来の街頭演説や選挙カーなどのアナログな手法だけではない、さまざまな選挙活動が展開されました。

ネット選挙活動は大きく二つの目的で導入されました。

  1. ネットになじみのある若者層に向けた情報発信を行うことで選挙に興味をもってもらい、投票率を押し上げる
  2. ネットを通じた双方向のやり取りを活発化させることで有権者と候補者の対話を深め、有権者の政治参加意識を高める

はたして、ネット選挙運動という初めての試み、各紙どのように見ているのでしょうか?総じて「全体としてやった価値はあったがまだまだ課題が多い」という評価のようです。

 

まず良かった点として、

 

今回の参院選の選挙期間中、一部の政党はユーチューブ、ユーストリームニコニコ動画で政治家や候補者が喋っている映像を配信しました。やはり有権者が投票先を決定する上で、政治家や候補者が喋っている映像を視聴するというのは大事なことです。また菅直人元首相は7月15日付の公式ブログで、ネット選挙の意義の一つとして、一般市民の質問に対して菅元首相が回答できる点を挙げていました。政治家や候補者は多忙なので、回答できる質問の量には限りがあるでしょうが、菅元首相の指摘はネット選挙を考える上で意義のあるものです。

(おくたま経済新聞)

「街頭演説の日程など、一つの情報伝達手段としては活用された。選挙情報自体は非常に多くなって、その点はプラスだったと思います」と、日大法学部の岩渕美克教授(政治学)は有権者が接する情報量が増加した点を評価。

(スポーツニッポン)

有権者のネット選挙に対する関心は高いと思う。有権者が候補者選びの参考にネットを使い、投票前にじっくり自分で吟味して選んだという意味で投票の質は上がった。

(時事通信)

 

新聞、テレビ、座視、ホームページといった従来メディア以外の情報発信手段としてSNSやネット動画メディアが広く使われたことが評価されています。UStreamは放送中にチャットができる、ということもあって一方的な情報発信ではない、双方向のやり取りも可能にしているという点で、大きなメリットがあったのでしょう。

 

選挙活動期間中インターネットで東京選挙区もっとも話題になった候補者は山本太郎でした。(Yahoo!リアルタイム検索結果の分析による。)
他の候補者の注目度をはるかに凌駕するレベルで、選挙戦最終日は他の9候補を合計したものの5倍を上回る注目度でした。そのかいもあってか、山本太郎は4位当選。

(BLOGOS)

 

当選の賛否はともかく、街頭演説と動画配信を積極的に展開した山本太郎氏の活動の注目度は高く、東京選挙区では安定した支持基盤をもつ他候補に対し、ネット選挙活動を最大限利用して浮動票を集めるのに成功しました。

 

とはいうものの、もともとの目的であった投票率の向上には残念ながらつながりませんでした。今回の参院選の投票率は52.61%と過去3番目の低さ。夏休みに入っている地域があることや、日曜日で好天に恵まれた絶好の行楽日和だったことも、選挙にとっては災いしたようです。

 

それ以外にも、

 

インターネット選挙運動解禁により投票率が上がれば良かった。今回の選挙では野党が自民党への批判の受け皿にならなかったため、投票率が上がらなかったのは仕方がない。

(時事通信)

 

として野党が総崩れになって今回の選挙そのものに対する興味が薄かった、という見方もあるようです。

 

では、ネット選挙解禁にあたってどんな課題が浮上したのでしょうか。

 

多くの候補者の行動を見ていると、一方向的な宣伝で、新聞広告や政見放送の代わりの手段が増えただけとしか取り上げていない。ネットの素晴らしさはやりとりができることだ。有権者のやりとりの中に政党が入ってこなければいけない。

(時事通信)

公職選挙法の縛りにより、公示後は業者が主体的に支援してはいけないということもあり「これまでネットにあまり接していない候補者は、機械的操作が分からない。SNSでつながった有権者とのコミュニケーションの取り方が分からない。炎上も怖い。結果として、SNSは情報発信や宣伝にしか使われなかった」

(スポーツニッポン)

 

今回の参院選ではネット選挙活動が初めてということもあり、各紙が指摘しているように「おっかなびっくり」という感がありました。何がOKで何がNGなのかいまいちはっきりしないため、いきおい「絶対安全なライン」から一歩踏み出そうとしなかったのです。そのため、本来の目的の一つである「有権者と候補者の活発な意見交換」の場にはなることができず、候補者からの一方的な情報発信、つまり新聞やテレビといった従来メディアの代替手段としてしか使われなかった、という反省が多々みられました。

一方でネット選挙活動を最大限に活用した山本太郎氏はやりすぎた感もあったようで、“【政治】山本太郎氏に公職選挙法違反の疑い、過激派との関係も”でも取り上げたように、公職選挙法で認められている範囲を大きく逸脱してしまったケースも見られました。

山本太郎氏の活動については選挙管理委員会の判断を待つのみですが、初めてのネット選挙活動ということもあり、お目こぼしされる可能性もあります。ただ、場合によっては個人情報保護法に抵触する可能性もあり、今後の対応が注目されます。

 

また、一部報道では「誹謗中傷などは少なかった」としていますが、次のような見解もあります。

 

多く見られたのは、「○○党はけしからん」という批判、即ち、アメリカの選挙活動において盛んに繰り広げられることで有名なネガティブキャンペーンでありました。日本の公職選挙法では、ネガティブキャンペーンは選挙活動に該当する場合と該当しない場合があるそうです。こうして見ると、今回のネット選挙における有権者のネット投稿活動の特徴は、「どの政党が優れている政党なのか」よりも「どの政党がけしからん政党なのか」を強調していた点にあります。

(おくたま経済新聞)

 

私自身もTwitterFacebook、各ブログメディアなどを参考にしましたが、ネガティブキャンペーンに相当するような有権者の発言は多々見られました。もちろん特定候補者を応援する発言もありましたが、総じて少なかったように思います。

しかし、情報発信源にネットが加わることで情報量が飛躍的に増えるため、それらの情報がどこまで真実なのか、十分検証できるだけのリテラシーが必要になってくるのも事実です。

 

インターネットに詳しいジャーナリストの津田大介氏は「一部では、対立候補に対してネガティブキャンペーンが行われたり、ネット上での攻撃もあった。候補者の情報は増えたが、日本の場合はその情報を読み解くメディアリテラシー教育が進んでいない。事実に基づくものなのか、情報を受け取る側はうのみにせず多角的に判断することがこれからはより重要になる」と指摘した。

(スポーツニッポン)

 

津田大介氏が指摘するように、ネット選挙運動では有権者側に高度な情報リテラシーが求められるようになります。まだまだ情報リテラシーに関する教育が不十分な日本です。セキュリティ対策等も必要ではありますが、情報リテラシー教育が急務なのではないでしょうか。

 

最後に余談として、選挙期間中にこんな話が出回っていました。

 

投票用紙分類装置の内部に、小型の「投票用紙改ざん装置」を取り付けることが可能なら、不正選挙は簡単にできる。
「投票用紙改ざん装置」は鉛筆のカーボンを遊離させ、再付着させる手法が考えられる。
カーボンの遊離と再付着だけで改ざんされれば、内部にカーボンを追加する必要がないので、インク切れのような問題は起こらない。

(世界の真実の姿を求めて!“不正選挙→「投票用紙改ざんの手法」”)

 

この「鉛筆のカーボンを遊離させて再付着させることで投票用紙の改ざんが可能である」という話がまことしやかに出回り、一部地域では「投票所の鉛筆ではなくボールペンや油性ペンを持参して投票しましょう!」という動きに発展しました。

実際のところはどうなのでしょうか?

投票用紙にはユポ紙という合成紙が使われています。一般的な繊維をつかった紙ではなく、ポリプロピレン製の、いわゆるプラスチックの紙です。この紙は折っても折り目がつかず、すぐにもとに戻るため、開票作業をスムーズに進めるために使われています。プラスチックですから、当然インクの乗りは非常に悪いです。ボールペンや万年筆で書くと投票箱の中で他の投票用紙とこすれてインクがはがれる可能性が非常に高い。そのため鉛筆での記入が推奨されているのです。逆にボールペンや万年筆で記入する方が自分の票が無駄になる可能性が高いのです。

と、私個人の意見ですが、紙表面の炭素分を電気的に遊離させて再付着させる、というのには大電力が必要だろうと思われるため、「小型の装置をつければ簡単にできる」というような代物ではとてもありません。

 

さて、みなさんは今回のネット選挙活動、いかがでしたでしょうか?

 

 

【ニュースソース】

ネット選挙運動 東京選挙区を制したのは?
BLOGOS

過剰な自己アピールばかりが並ぶネット選挙運動、コミュニケーションはどこに?
AdverTimes

ネット選挙の利点と問題点は何だったのか
おたくま経済新聞

ネット選挙解禁で最もトクした党は?
ASCII.jp

ネット選挙解禁も“おっかなびっくり”生かし切れず
スポーツニッポン

ネット選挙運動・識者談話
時事通信

「ネット選挙」いまひとつ 県内有権者50人本社調査
下野新聞