【国際】エジプト軍部がモルシ大統領を解任、事実上のクーデター

エジプト軍司令官のシシ国防相は3日（日本時間の早朝）、モルシ大統領の大統領権限を剥奪して解任、反政府勢力による混乱を収拾するため現行憲法を停止する声明を発表しました。軍部が政治的影響力の強い立場に立つということもあり、事実上のクーデターとなりました。

初の民選大統領だったモルシ氏は、出身がイスラム根本主義組織「ムスリム同胞団」だったこともあって、国家のイスラム化を急ぐあまり、経済の悪化に対する無策を露呈、イスラム化による独裁体質と国民に生活の困窮を強いる形となり、わずか１年で、国民の怒りを買い、支持を急落させる結果を産んだ。

（世界日報）

クーデターというと民主政権から軍事独裁政権への移行、という悪いイメージがつきまといます。しかし、今回のエジプト軍部によるモルシ大統領の解任劇は様相が違うようです。

ムバラク政権打倒後、初の民主政権として迎えられたモルシ大統領でしたが、世界日報他が報じているように、イスラム化による独裁色が強くなってきており、結局のところムバラク政権と大きく変わるところはありませんでした。むしろ、経済状態を悪化させたとして悪影響を及ぼしたと見る向きもあります。

大統領解任のニュースが伝わると、カイロ中心部のタハリール広場に４日前から集結していた大勢のデモ参加者から歓声が起こり、花火も打ち上げられた。

（ブルームバーグ）

「軍の声明を受けて、タハリール広場の人たち、大喜びです。ムバラク政権崩壊の時もこの広場に来ましたが、その時と同じような光景が広がっています」

（TBS News）

各紙報じているように、今回の軍部による事実上のクーデターはエジプト国民から歓迎されています。YOUTUBEにアップされていたFNNのニュースでも、モルシ大統領解任のニュースを聞いて歓喜するエジプト国民の映像が使われています。

エジプト軍が声明発表現憲法を停止、モルシ大統領を事実上解任(13/07/04 ...

6月28日の“【国際】エジプトでデモ隊衝突・・・アラブの春は失敗だったのか？”でも書いたように、うまくいっているかのように思われている、中東や北アフリカの民主化運動、いわゆる「アラブの春」はそのほとんどが失敗しています。民主派勢力は確かに現政権を打倒することには成功していますが、その後の理念が明確でなかったために迷走を続けており、今回のエジプトのように経済状態が悪化したり、ふたたび独裁政権に戻ったりしています。そうした中での軍部による強制排除ですから、国民からは熱狂的に受け入れられるでしょう。

この事態は、2011年に発生したムバラク政権打倒と重なって見えます。

スレイマン副大統領は国営テレビで演説し、ムバーラクが大統領職を退き全権をエジプト軍最高評議会に委譲した後、一家はリゾート地であるシャルム・エル・シェイクに移動したと発表。30年近くに及んだムバーラク政権はここに崩壊した。なお辞任表明後にムバーラクの体調が著しく悪化し、意識不明の重体になったと報道された。
ムバーラク政権崩壊を聞き付けた人々からは解放感があふれ、歓喜の雄叫びが上がった他、花火が打ち上がるなど、さながらお祭りのような騒ぎになっていた。

（Wikipedia“エジプト革命 (2011年)”）

民主派によるデモを抑えきれず、ムバラク政権は軍部に政権を移譲する形で身を引きました。その後、エジプト軍による暫定政権が誕生しましたが、軍部は政権を完全には掌握せず、一時的な憲法停止と半年以内の大統領選挙を約束しました。事実その通りになり、約1年前のモルシ政権誕生となったのです。

今回の軍部によるクーデターも状況が似ています。どうやらエジプト軍部は政権を掌握したいわけではなく、とにかく混乱を収拾したい、という思いの方が強いようです。